vol.4 老化について
今回は、松村先生自宅近くの鳥羽で、先生にお会いしての健康コラムの取材でした。 食事も挟んで5時間もご教授いただいたので、インプットはいい感じで私の脳は刺激をうけてますが、アウトプットするのがすごくプレッシャーになってます。
●図1はヒトの一生の概略を示しています
私たち人間は、生まれてきて20歳までは発育期、20歳から40歳頃までは成熟期、そして40歳からは退行期になります。老化とは退行期におこる不可逆的現象で、これを研究するのが長寿学です。
どこまで老化を防げるかを研究する学問でもあります。
●図2は縦が生存確率、横軸が時間を示す
生存曲線です。
Aの曲線を全うする方は、ピンピンコロリPPKですね。
Cは原始の時代。災害、致命的疾病等がふりかかり、平均寿命は短いパターン。
時を重ねるにつれてCからB´へそして現代のBのような曲線になります。
Aの天寿を全うするのが理想の形なのですが、科学、医学、文明の発達にもかかわらず、B´からBの曲線が長く続くようになっていますね。
そして、この現今のBの曲線からAの曲線への過程をどのように対応すべきかが、健康に天寿を全うできる道なのかどうかの大きな問題になります。
ここから松村先生の貴重なお話になります。Aのピンピンコロリの人生のおくりかたがどういう理屈でできているのか紐解いてもらいます。
① 寿命の話をしましょう。
寿命説はたくさんありますが代表的なのは
① ヘイフリック説(継代培養実験)
細胞は平均すると2.5年に一回再生されます。新しい細胞に生まれ変わるのです。 それは最大50回可能だと、この実験でわかりました(ヘイフリック限界)。 従って細胞だけを考えますと125年の寿命をもって本来生まれてきているのです。 ただ一生の間に、生活習慣等の悪化によって、特にBの曲線のような退行期の過程で病気になって寿命は変わります。
② 成長期の5~6倍説
成長期20歳の、5倍から6倍が寿命といわれている説です。 これもまた寿命は100歳から120歳なんですね。 命の回数券をゆっくり使えばの話です。 ゆっくり使うというのは例えば、活性酸素が大暴れしないような生活習慣をすることであり、 病気をしないことでもあります。
③ テロメア説
この説、テロメアとは染色体の両末端部にあり、染色体を保護する役目があります。 別名「命の回数券」といいます。 塩基。初めて聞く言葉です。 この塩基は化学において酸と対になって体内で働いてくれています。 そしてテロメアは主に塩基で作られています。 先ほど申し上げました通り、細胞はたえず生まれ変わっています。 1年間に平均、テロメアの50強の塩基が細胞分裂で使われ短縮します。
そして最初10,000塩基が存在していますが、使われて減少し5,000塩基になると、 寿命がつきることになります。 1年に50塩基がなくなるとすると100年で5,000塩基で、だいたい寿命は100歳だということですね。 しかし上手に使って毎年40塩基ずつ減ると125歳まで生きられるということになります。 細胞について詳しくお話しますね。 細胞の分裂回数は有限です。 細胞がつぶれたら再生しようと細胞が分裂します。 この年間の分裂の回数を減らすのも長寿の秘訣です。 つまり命の回数券をゆっくり使うということです。
② ATP再生のメカニズムとミトコンドリア
ここで代謝の要であるATP再生のメカニズムとミトコンドリアについて復習しておきましょう。
ATP→すべての植物、動物、微生物の細胞内に存在するエネルギー分子です。 ATPによってたくさんのエネルギーが生み出されています。私たちは必ず、摂った栄養素を一度ATPに変換して、それを分解する時のエネルギーで活動しています。
一般的に、血流がよくなり、体温があがり、酸素が増えてミトコンドリアが増えて、ATPが増える。 ATPを増やしてエネルギーを増やしたら、細胞の代謝もスムーズに行われます。 生体が活動するために必要なエネルギーを得る方法には2系統ありました。
①細胞質からATPをつくる(解糖系)。 細胞質は酸素を使わないで、嫌気的にブドウ糖1分子からATPを2分子つくります。 白筋と瞬発力がキーワードです。
②ミトコンドリアからATPをつくる(有酸素系)。 好気的(酸素が好き)にブドウ糖一分子からつくられるATPは36分子です。 ミトコンドリアは解糖系からつくられるATP分子と比較して効率がよく、 18倍のATP分子をつくってくれるのです。 ミトコンドリアが寄生しやすい身体、すなわち、高体温で酸素の多いものを作ったら、 ミトコンドリアが増えてATPがたくさんできる。 ATPによってたくさんのエネルギーが生み出されています。
もう一度復習しますと、血流をよくすると、体温があがり酸素が増え、 ミトコンドリアが増えてATPも増える、ということになります。 それからもうひとつ大切なことは、ミトコンドリアは細胞分裂を抑制する遺伝子を持っている ということを忘れてはいけません。 今回、当たり前に言われていることの根拠を探ってきました。
わかりやすく再度申し上げます。 運動または入浴等々で血流アップ→体温アップ→酸素量アップ→ミトコンドリア数が増加→ATP量アップ 一方ミトコンドリア数がアップするとミトコンドリアが細胞分裂抑制遺伝子を持っているので 細胞分裂が抑制される。細胞分裂が抑制されることで、テロメアの減少が抑えられる(塩基の減少も抑えられる)。それで命の回数券をゆっくり使うことになる。
というわけです。
③ ①②で述べてきた長寿学の実証
①②で述べてきた長寿学の実証はどのようにして得られるのでしょうか?
それは実際に長生きしている人たちを観ることでなされます。 そこで今回、世界で認められている長寿村をしらべました。
その主な地域は
①旧ソ連の「コーカサス地方」
②パキスタンの「フンザ」
③南米エクアドルの「ビルカバンバ」
④中国北西部「新彊ウイグル地区」
⑤中国広西「巴馬」
などがありました。
この地域の方の特色を申し上げますと、
1.少食(粗食):主食は未精白穀物(玄米、玄麦等々)、大食漢はいない。
2.菜食:副食の中心は野菜、発酵食品などの植物性食品(肉食者はいない)。
3.長息(腹式呼吸、笑いが絶えない)。
4.筋トレ(高台での畑仕事)。
5.愛情深く、子だくさん。
このように長寿村の人々は植物を主にした食事を摂っています。 それで、草食動物と肉食動物の寿命を比較してみることにしました。 肉食―虎(15~20年)、ライオン(10年~15年)、ヒグマ(20年~30年)(肉・草・両食) 草食―ゾウ(60~70年)、サイ(50年)、カバ(40年)
このように草食動物が肉食動物より長生きしてるようにみえます。
次に健康で老化を出来るだけ遅らせて、図2の天寿を全うするように BからAへシフトさせるには、どのような生活をおくっていけばよいのかを 長寿村の資料を参考に考えてみたいと思います。
その前にトピックスです。
2000年に米MITのレオナルド・ゲレンテ博士が長寿遺伝子(サーチュイン)を発見、 これが活性化すると寿命が延びることを明らかにしました。 サーチュインの活性化には「空腹刺激」と「少しきつい運動」が有効とわかりました。 これのスイッチをONにすることが大切です。そのためにどうするか?
まず食事ですが、私たちの身体は食べたものでできておりますが、大切なことは『食べ過ぎないこと』です。満腹を100%とするとそれの70~80%位にとどめる。 そして主食は、未精白穀物にする。できれば玄米がベター。
副食の中心は野菜、そして海藻類、これにミネラル食品として小魚などを。
間食には果物や木の実。油はω3とω6をバランスよく摂る。
発酵食品として味噌、醤油そして納豆など。塩は食卓塩ではなく自然塩を。
動物性たんぱく質は歯列の割合からみても極力少なくてよい。
もう一つ白砂糖は極力避け、加工食品や添加物に注意。
そして食べれるものはできるだけ「生で食べよう」。
④ 次に運動を行う。
筋肉をよく使い、血流を促し、体温を高く保ち、そして酸素の豊富な血液を 循環させること。手軽にできるウォーキングはNO(一酸化窒素)を発生させ血行を促進させます。 また筋トレを行うことによりマイオカイン(筋肉から出るホルモン)の分泌をうながしたり、 基礎代謝をあげたりします。そして長息や笑うことの効果は、自律神経を調整し、ストレスの緩和や 免疫力の強化に役立ちます。
まとめに入りますと、色々な情報が飛び交ってる中、人間の細胞の在り方を知識としてもっていると、 フラットに自分のライフスタイルと向き合えると思います。 その細胞の仕組みを、老化というキーワードのもと、松村先生に紐解きをしていただきました。 長寿村のライフスタイルに近づける生活をしていくと前に述べています生存曲線がAに近くなります。
私事ですが
年末、母が腰を骨折して身動きがとれませんでした。私のライフスタイルの中の介護という2文字も、そんなに遠くないということを年末年始考えさせられ、私自身も長生きをするための努力を一切していませんが、 老いていく中、自分だけの問題ではなく、自分のことが何もできなければ色々な人に迷惑をかけてしまう。
退行期をまっしぐら進行してる中、
「Aの生存曲線に近づけないと家族や周りの人に迷惑をかける人生になってしまうなあ」と
書きながら痛感しています。すぐにできるものではありませんし、それがストレスになったら
続かないです。
2020年から長寿村のライフスタイルに近づけるようにゆっくり意識改革をしていきたいと思います。
長寿村のライフスタイルでもありましたが、高地での生活でもって生まれた生活の中で衰えにくい
筋肉というものが培われ備わってます。 私たちのライフスタイルの中では意識しなければどんどん衰えてきます。 筋肉を維持するため、スクワット→腹筋→背筋→腕立て伏せ等を意識して、食事も少食と穀菜食を意識し、 またミトコンドリアに好かれてATPをいっぱい作っていく生活習慣を心掛けたいです。
株式会社リュウナ
小寺恵子
監修
大阪体育大学名誉教授
松村 新也先生